読んだ。
- 作者: A.A.ミルン,大西尹明,A.A. Milne
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1959/05/02
- メディア: 文庫
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おそらく再読のはずだけど、まったく覚えておらず初読の気分で読んだけど、途中でトリックというかギミックが分かってしまったぞ。
さて、あらすじ紹介を引用してみよう。
(熊のプーさんを書いた)ミルンの唯一の推理長編。この一作でミルンの名はミステリ史上に残ることになった。(中略)部類のユーモアを持って描かれる二人の素人探偵の活躍。
一発芸の結末をネタバレするわけにはいかないので、骨格を考えてみる。
まず探偵現る。ここまでは常套句。ところがワトスンは探偵によって指名される。また役割を与えられる。と書くとワトスンに巧妙な仕掛けがあるな!と思われるかもしれない。
ちがうちがう。要するに探偵が「きみがワトスン役をやりたまえ」と指名するということ。ところが、本作のワトスンは「ホームズのワトスン」とは一味違って冴えがあり、行動力あるワトスンだ。このワトスンの人物も物語のやさしさの一角を担っている。
また、この設定を整える過程で、ホームズの探偵法、そして本家ワトスンへの皮肉が投じられている。これが小気味よい。ホームズ物は本格ミステリの著者、あるいは読者から疎んじられているという経緯もあるせいもある。
ちなみに、探偵の名前はギリンガム。ホームズ物からも本格ミステリからも距離を置いたA.バークレーが作り出した探偵をモデルにしている。
さて、舞台は田舎の邸宅であり、所謂カントリーハウス物。昼間はゴルフをしたりテニスをしたりして、夜は夜会服を着用しておいしい御馳走を食べたり、葉巻を吹かして議論するってところに事件が発生するってやつだね。
で、このスタイルには、犯人は招待客にいるという暗黙の了解がある。そして各人のアリバイを確認したり、滞在中に事件につながる小さな出来事がなかったかを探るのが焦点になる。
ところが本作。驚くべきことに招待客を事件発生直後に帰宅させてしまうのである。すなわち、登場人物のほとんどが事件現場、物語の舞台から立ち去ってしまうのである。
設定としては、なんとも異色だ。読者(私)は肩透かしを食らったように脱力してしまう。とはいえ、ここがディレクションになっているんだけど。いや、大したネタではないから安心してね。
さて、本書の肝はなんといっても献呈の言葉。亡き祖父に捧げるとかってやつ。引用ばかりで恐縮だけど引用しないわけにはいかないので書いてみる。
お父さま。本当に心からいい人の例にもれず、推理小説とくるとお父さんは目がありません(中略)あれほどお父さんに恩を受けていながら、そのお返しとしてぼくに出来る精一杯の仕事といえば、推理小説をやっと一つ書くことなんです。A.A.M
ね?やさしい人でしょ。そして、登場人物のほとんどが優しい人ばかりなんだ。「ミステリって殺人事件ばかりで嫌だなあ」という人もベッドの中でごろごろしながら読んでみると面白いと思うよ。
(付記)
1921年刊行。戦間期物。