けろやん。メモ

はじめまして。こんにちは。

 岡嶋二人「殺人者志願」(講談社文庫):惨めに嗚咽を漏らすことの人間性

読んだ。

殺人者志願 (講談社文庫)

殺人者志願 (講談社文庫)

初読。快作。
それにしても取りこぼしが多いな。
http://d.hatena.ne.jp/kerodon/20120401/1333275348
本作品は、たたみかけるジェットコースター・サスペンス。正直、読み進むことが恐ろしかった。目をつぶって本を閉じたくなった。
そんな恐ろしいサスペンスにとどまらず、ハウダニットの驚天動地。そして、このハウダニットがサスペンスを最高潮に盛り上げるという相乗効果。
サスペンスとかハウダニットとか連呼しているけれども、人間の本質を描く作品でもある。若干長いが引用する(ネタバレにつながりかねない部分があり、一部白抜き表示にした)。

握った両手の震えが、ロープを膝の上に躍らせる。口を大きく開け、息を思い切り吐き出した。その途端、俺の喉が咳き込むような音を立てた。涙が、両の頬を流れ落ちた。(中略)俺は、ただ両手にロープを握ったまま、涙が流れるのをどうすることもできないでいた。息を吸い込もうとするたびに、喉がしゃっくりのような音を立てた。

ここまで惨めに人間を描写するのは岡嶋にしては珍しいのではないか?(まあ冒頭に述べたように取りこぼしがありそうなので、大上段に断言できないが)
それに対するパートナーの言葉。

「いいことをするって、気持ちがいいわね」

春の風のように爽快である。補足。この言葉で見当が付くと思うが、先の引用部分は主人公が無垢な相手を絞殺しようとする場面である。
さて、トリックについて。

http://d.hatena.ne.jp/kerodon/20120409/1333969128
私は「メイン・トリック」と問われて首を傾げてしまった。というのも、この作品のメイン・トリックってなんなんだろう?という思いに捕らわれたから。まあ、よくよく考えてみると、「ああそうか」と首肯したけれども合点いかない残滓は拭いがたい。

ここでは曖昧だったメイン・トリックが、本書ではテクニカルでありながら燦然と輝いている。テクニカル。往々にしてネガティブに捉えられがちなタームであるが、本作におけるテクニカルは、謎が解明されたとき大いなる快感を誘発するに大成功している*1
実現性も十分にクリアしている。まあ実現性なんてものは、そもそも後付けの話で小さなものだが、このメイン・トリックにおける怪異周到なる実現性は記憶すべき。
さて、惜しむらくは、冒頭に述べたように読み進むのが恐ろしいサスペンスであり、夜中に読むことを勧められないこと。明るい部屋で、あるいは新緑の公園で、「ジェットコースター」に乗り込もう!

*1:テクニカルなトリック全般を考えると、8割方が文字通り「テクニカル」に堕すると思われるが、本作のように「テクニカル」ならではのカタルシスが醸成されることもあり、正直、諸刃の剣であるといえよう。