けろやん。メモ

はじめまして。こんにちは。

 今野敏「隠蔽捜査」(新潮文庫)〜危機管理と父権について。

知人に借りて、というか貸し出されて、ほとんど無理矢理読んだ。傑作。

隠蔽捜査 (新潮文庫)

隠蔽捜査 (新潮文庫)

読み始めたとき、ユーモア警察小説かと思った。あるいは、それ、なんていうテロ支援国家?みたいな。冒頭で、主人公の家族への思いが綴られる。

妻はそれ以上何も言わなかった。家庭のことは妻の仕事だ。私の仕事は、国家の治安を守ることだ。竜崎の考えははっきりしていた。

この辺りは、本ネタへの導入的な記述。続いて、息子に対する主人公の思い。

竜崎にとって東大以外は大学ではない。邦彦は私立大学に入学させてもらえなかったことを怨んでいるかもしれない。(略)だが、社会に出るときに必ず感謝するはずだ。竜崎はそう思った。

・・・。

ところがどっこい、この二つの記述に垣間見える主人公の姿勢は、決して冗談ではないのである。冗談ではないということであり、本作品を貫く背骨として生きていく。

そして、本作品を読了後に、上記引用を振り返ると、「おお、ハードボイルドではないか!」と思えてしまうのである。ハードボイルドについて語るに、やぶさかではないのだが、それは横に置いて。

本作品は、危機管理の物語である。警察官僚の危機管理。外からは窺い知れない彼らの業務実態(あくまで小説だけどね)を読むにつけ、世間の官僚(公務員)叩きが無性に腹立たしく思えてしまう。本書を読むと、公務員への見方が変わるかもしれない。

忘れてはならないのは、本作品が家族の物語でもあること。先に引用した部分が、起死回生のアッパーカットのように効いて来る。

私も主人公のような男になりたいものであるよ。