けろやん。メモ

はじめまして。こんにちは。

 浅田次郎「昭和侠盗伝(天切り松闇がたり4)〜モダーンな戦中

天切り松 闇がたり 4 昭和侠盗伝 (集英社文庫)

天切り松 闇がたり 4 昭和侠盗伝 (集英社文庫)

「泣かせ」の浅田次郎のシリーズ物で、一番好きなのがこの「天切り松」シリーズ。なのだけど、3巻が単行本で出ていたことは知っていたが、3巻が文庫本になり、4巻すらが文庫本になっていたのは、つい最近知った。地味に続いているのだなあ、というのは言い訳かな。

舞台は大正時代が終わり、昭和初期に突入していた。ということで、舞台は満州事変頃で、帝国陸軍内で統制派と皇道派の対立を題材にした物語も収録されている。と物語としても、「天切り松」シリーズの真骨頂が出ていて、面白く、涙が出てくるのだけれども、当時の風俗描写が興味深い。引用してみよう。

「キミのお化粧は、このごろクレヴァだね」
男が女の頬をつついて言う。
「デレケイトとおっしゃって。ナイト・アンド・デイに通用するメイキングは難しいのよ」
(略)
「ご心配なく。あの人ったら、リキュールでベロベロに酔っ払ったあげくの果てに、ワンダリング・ハウスのステップを踏んで勝手に寝ちゃったわ。私は円タクでグッドバイよ」

1935年(昭和10年)の東京における男女の会話。物語だからデフォルメしてるんだろうな、とにわかには、信じられない。もちろん、誇張はあるにしても、現在、読んでいる

戦中派虫けら日記―滅失への青春 (ちくま文庫)

戦中派虫けら日記―滅失への青春 (ちくま文庫)

で記述されている町の風景というのも、私が想像していたものとは異なっていた。こちらは、「日記」というリアル・タイムに記述されたもので「物語」ではない。「東京」という特殊な場所であることを差し引いても、非常に驚いた。

さて、建築が好きな私なので、表題の浅田本の気になる箇所を引用しておこう。

震災を境にして変わったものは、町のたたずまいだけではないという雑誌の記事を松蔵は思い出した。それまでの東京はロンドンやパリの物真似だったが、昭和という時代を装うのは、ニューヨークやサンフランシスコなのだと。