けろやん。メモ

はじめまして。こんにちは。

 佐々木俊尚「ネットvs.リアルの衝突」(文春新書):理念と現実の狭間にて

はじめに

私と本書の著者である佐々木俊尚氏との距離について。私は、佐々木氏に対して、「ことのは騒動」の観点から、批判(というか罵倒)を行った。そして、http://d.hatena.ne.jp/BigBang/20061128/p1のコメント「佐々木氏、けろやんのエントリー気にしてたよ。ぼくなりに説明しておきましたけれど。」を受けて、佐々木氏にメールを送信し*1、佐々木氏から返信のメールを頂戴した。

以上の出来事が、存在したことは事実であり、またその出来事が念頭にあり、本書を手に取り、そして読了したことも事実である。しかし、以下に記す感想文は、過去の出来事を出来る限り捨象して書いた。なお、本書の奥付を見ると2006年12月20日第一刷と未来日付が記載されているが、献本でもなく、経費で購入したわけでもなく、私の小遣いで購入したものである*2

本題

本書は、

著作権を侵害する行為を蔓延させて、著作権を変えるのが目的だったんです」*3

という言葉を巡る「物語」である。もちろん小説ではなく、ノンフィクションなのだが。具体的に書くならば、先日06年12月13日に、その開発者に対して判決が下された「Winny」を中心に据えたノンフィクションであり、そして「物語」である。急いで付け加えると、Winnyは、あくまで中心主題であり、そこからP2Pの”技術革新”の過程、開発者の人間像の考察、そしてインターネット史を経て、IT世界における日本の「三度の敗戦」を織り交ぜ、最後に未来への展望が記されている。

最近、先の判決を巡って、所謂ブロゴスフィアにおいて、議論、意見、提言を数多く目撃するが*4、個人的には、そもそもWinnyというものを理解していなかったので、興味はありながらも付いて行けなかったことが正直なところである。しかし、本書では、Winnyが、いかなる仕組みで成り立つ物であるのか?また、その開発理念、そして、それが社会に及ぼす影響が、詳らかに語られている。

そして、各所に、「革命家」、「ユートピアを夢想」、「建設的な共同社会」、「王政復古」という煽動的な言葉を交えながら、熱く語られている。さながら、ジェットコースター小説を読む感覚で、一息に読み終えた。冒頭に「物語」と冠した理由である。

第三章の最後から引用する。

彼(開発者)は思想犯として、従来の著作権の概念の崩壊をはかった。その手法はテロリズムに近いものではあったものの、ある種のヒロイックな行為でもあった。そのヒロイズムは、(略)インターネットの理想を追い求めるひとたちの思想的バックボーンから出たものだったのかもしれない。そのバックボーンをこれから追い求めてみたい。

筆者の言葉に偽りはなく、まさに「追い求めた」世界が展開される。60年代アメリカに芽生えた自由への想いに始まり、80年代から90年代にかけて、日本のIT業界が「標準化」の夢を希求しながらも、日米貿易摩擦という経済環境に翻弄され、そして「ウィンテル帝国」への挑戦が、「物語」として綴られる。

同時に、それは、インターネットが、自由という夢を抱いて生まれ、成長していく過程でもあり、またそれを手中に治めようとする「国家」との衝突の歴史でもある。その衝突の象徴として、Winnyが例に挙げられている。2ちゃんねるのスレッドで、語られる開発者の理念*5と利用実態の乖離のくだりを読んでいる際には、考え込みながら涙腺が緩んでしまった。

そのように、熱いノンフィクションである。また、本書自体も分厚く、情報が満載されている。

しかし、最終章で述べられているウェブ2.0に対する筆者の楽観的な見方に、私は懐疑的である。引用する。

それまで「著名−無名」「大手−個人」という強弱によって片方向になってしまっていたインターネットが、完全に双方向になったのだ。

双方向の技術的なプラットフォームが、完全にとは言わないが、実現していることは認める。しかし、そこを流れているコンテンツについて考えた時、私は、双方向性が「完全に実現した」とは到底思えない。すなわち、一口に「無名」「個人」という枠では括れないというのが、私の現状認識である。

声が大きくその影響が大きい「無名な個人」も居れば、そこに至らない「無名な個人」も同じ土俵に並存している。それが、現在の状況であり、双方向性の実現について、今後も考えていくべきであると思う。そもそも、実現が可能か否かについても。

最後に味噌をつけたが、Winnyが体現しようとした理念及び背景、そして、これからのインターネット世界について考えたい方には、一読することをお薦めします。

(本稿以上)

おわりに

http://d.hatena.ne.jp/kerodon/20061214/1166096955

で書いたことと本書は、まったく関係ないことでした。すなわち、私のエントリが与太話であったということです。なお、http://d.hatena.ne.jp/kerodon/20061215/1166181448で触れた本は、本書ではありません。下記の本です。

Web2.0が殺すもの (Yosensha Paperbacks)

Web2.0が殺すもの (Yosensha Paperbacks)

web2.0幻想を打ち砕く(というと過激かな)内容であり、同書においては、「Google」を記した佐々木俊尚氏及び、「ウェブ進化論」を記した梅田望夫氏への批判(罵倒ではない)も記されています。

<<参考リンク>>
■Winny(wikipedia)
■Winny事件判決の問題点 開発者が負う「責任」とは (1/3)

*1:メールを送ることを思い立った理由は、罵倒したことを悔やんだまま年を越したくなかったことと、私の真意を正確に伝えたかったからである。

*2:出版業界のしきたりだろうが、こういう日時については、正確に記して欲しいと思う。特に、新書については。

*3:本書の一節から引用。

*4:それは、現在も進行中である。

*5:開発者本人は、裁判において、書き込んだか否かについて「記憶にない」と述べている、とのことである。