- 作者: 横山秀夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/07/12
- メディア: 文庫
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甲子園優勝投手を主人公に配して、彼を取り巻く人間群像が、物語の大枠となっている。ケレンとしては、鳴り物入りで大学野球部に入った彼が、肘の故障で投げられなくなり、「魔球」の研究をする最中、回天乗員として出撃基地に配置されること。
このような物語の結末は、所謂「散るが花」になるのが通例だろうが、それだけでは、ステロタイプな戦争物語の域を超えることができない。読み手としては、最後の「外し」を期待しながら、読み進み、本作ではその外し方の妙を堪能できる。
そして、主人公が「舞台を去った」後も続く物語。人によっては、「なんという蛇足であろうか!」と思うかもしれない。しかし、このシツコイまでの蛇足の配置が、人間魚雷という困難な題材を小説化する上で、見事な安全弁の役割を果たしている。
引用してみよう。
オニヤンマが飛んでいた。季節外れのオニヤンマが・・・。見とれるうち、包みの粉がサーッと風邪にさらわれていった。オニヤンマは西の空に消えた。(略)美しい今日の夕暮れがあった。
終わった物語が、「今日の夕暮れ」を指し示す。
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個人的には、出来不出来の波が大きすぎると感じる横山秀夫作品。本作は、突き抜けてはいないが、及第点の佳作だと思います。