けろやん。メモ

はじめまして。こんにちは。

 横山秀夫「出口のない海」(講談社)

出口のない海 (講談社文庫)

出口のない海 (講談社文庫)

太平洋戦争末期における人間魚雷回天を巡る物語。

甲子園優勝投手を主人公に配して、彼を取り巻く人間群像が、物語の大枠となっている。ケレンとしては、鳴り物入り大学野球部に入った彼が、肘の故障で投げられなくなり、「魔球」の研究をする最中、回天乗員として出撃基地に配置されること。

このような物語の結末は、所謂「散るが花」になるのが通例だろうが、それだけでは、ステロタイプな戦争物語の域を超えることができない。読み手としては、最後の「外し」を期待しながら、読み進み、本作ではその外し方の妙を堪能できる。

そして、主人公が「舞台を去った」後も続く物語。人によっては、「なんという蛇足であろうか!」と思うかもしれない。しかし、このシツコイまでの蛇足の配置が、人間魚雷という困難な題材を小説化する上で、見事な安全弁の役割を果たしている。

引用してみよう。

オニヤンマが飛んでいた。季節外れのオニヤンマが・・・。見とれるうち、包みの粉がサーッと風邪にさらわれていった。オニヤンマは西の空に消えた。(略)美しい今日の夕暮れがあった。

終わった物語が、「今日の夕暮れ」を指し示す。

−−−
個人的には、出来不出来の波が大きすぎると感じる横山秀夫作品。本作は、突き抜けてはいないが、及第点の佳作だと思います。

参考

回天(wikipedia)