けろやん。メモ

はじめまして。こんにちは。

有栖川有栖「女王国の城」(東京創元社):最後のホワイダニット。

過去に書いた感想文の再掲。

第8回(2008年)本格ミステリ大賞受賞作「女王国の城」について。
有栖川有栖「女王国の城」〜最後のホワイダニット - けろやん。メモ

2007年12月21日初出。

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前作「双頭の悪魔」から15年ぶりの江神二郎シリーズ(あるいはEMCシリーズ)長編である。なんとも15年であり、15年前と言えば西暦1992年。バブルの宴の余韻が残っている時代だ。そして、時代設定も当時であり、多額の寄付によりバブルチックな「城」を築き上げた新興宗教団体の「村」が舞台となっている。

とにかく15年ぶりの江神シリーズの長編である。本書を手に取り、「ああ、生きていて良かった!」と心から快哉を叫んだ人々も居たに違いない(私を含めて)。

物語は、いずれ回収の予兆を読者に示唆する伏線を散りばめながら、ゆったりと進む。ケレンはUFO考察(参考:http://s04.megalodon.jp/2007-1218-2203-01/www.asahi.com/politics/update/1218/TKY200712180359.html(キャッシュ))。こうなると江神シリーズ節全開である。

しかし、読了後、本格ミステリ好き、及び江神シリーズのファンにとって、評価は大きく分かれるのではなかろうか?

作中で繰り広げられるドタバタ活劇は、京極夏彦の「京極堂シリーズ」と見まごうばかりであり、アリスとマリアのロマンスは少女漫画を連想させる。ドタバタ活劇とロマンス。思えばいずれも江神シリーズの魅力である。しかし、今回のそれは、クリーム過多のケーキという印象。

さて、ケーキのスポンジ生地について。江神シリーズ(そして有栖川作品全般)が、ザ・クイーン・オブ・クイーンズの犯人探し、すなわちフーダニットであることを再認識した。ところが、その認識において本作を読むと、不満足なものである。

まず、正統派過ぎるところ、で、かつ穴があること。例えば、隠し事の伝達は考慮されていない。あるいは、作中で提示されるラジコンに替わる手段。この辺りの畳み掛ける精緻性において、前作「双頭の悪魔」には及ばないと感じた。

しかし、ところが、「城」を巡る最後のホワイダニットは秀逸。なぜ「城」として外部から遮断されていたのか?なぜ「城」として外部への扉を閉ざしていたのか?この辺りは、読んでのお楽しみである。

そして、あとがきの驚愕。これは、私の驚愕であり、他のオッカケ読者には既知のことだったのかもしれないが、「おお!そうなるのか!!」という喜びと悲しみに溺れてしまった。

(本文以上)
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「しかし、ところが」な感想文ですが、いつか再読するときに、かの名作「双頭の悪魔」を超える本になるかもしれない予感がします。予感というか、期待かな。

参考:以下のランキング本に著者のロングインタビューがあり、「女王国の城」を読了した方は興味深く読めるかと思います。

(本稿以上)