けろやん。メモ

はじめまして。こんにちは。

 岡嶋二人「あした天気にしておくれ」(講談社文庫):因縁を超えて嘲笑高らかに 

再読した。

焦茶色のパステル (講談社文庫)

焦茶色のパステル (講談社文庫)

第28回江戸川乱歩賞受賞作(1982年)にして、岡嶋二人の記念すべきデビュー作。そして因縁のデビュー作。因縁については後述。
この作品、特にトリックはなく、意外な犯人物(フーダニット)という位置付け。サスペンスの要素も散りばめられている。が、サスペンス物が必要とする人物造型が貧しい。
ちなみに人物造型が豊かである、ということが賛辞としての常套句ではあるものの、その薄弱さが問われる稀有な作品もある(具体的な考察はいずれ)。
さて、因縁。本作品の前年、第27回江戸川乱歩賞候補(1981年)となった作品がこちら。
あした天気にしておくれ (講談社文庫)

あした天気にしておくれ (講談社文庫)

これは名品である。なぜ乱歩賞候補に甘んじたのか?いわく「メイン・トリックが実現不可能である」いわく「メイン・トリックに前例がある」というのが主たる落選理由。
私は「メイン・トリック」と問われて首を傾げてしまった。というのも、この作品のメイン・トリックってなんなんだろう?という思いに捕らわれたから。まあ、よくよく考えてみると、「ああそうか」と首肯したけれども合点いかない残滓は拭いがたい。
と、惑うほどにこの作品における「メイン・トリック」は重要な位置付けにない。本作品の魅力は、策を弄する倒叙物から、フーダニット、そしてホワイダニットに転ずるところ。倒叙倒叙でなくなることで、読者はなんともいえない曖昧な浮遊感に襲われ物語に引き込まれる。
また、魅力的な主人公が、欲に眩んだ「上司」(馬主)に呆れかえりながらも謎を追求するストイックな姿は白眉。彼に接触する***についても最後まで読者はだまされてしまう(たぶん)。心地良い人物像、心地良い翻弄だ。
正直、本作品におけるメイン・トリックの先例および実現不可能性については、枝葉末節に過ぎないだろう。いずれにしても「候補作」が陽の目を浴びて世に出たことには感謝である。
本作品刊行(1983年)以降「タイトルマッチ」「どんなに上手に隠れても」と岡嶋二人傑作群の快進撃が始まる。「因縁の作品」は跳躍への礎であったと考えることも可能であろう。
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穿った見方をすると「あした天気」が非常に優れた作品であると自負した著者たちが、あえて平易な「パステル」で江戸川乱歩賞に確信犯的に阿諛迎合したのではないだろうか?
阿諛迎合という言葉が悪ければ、当該賞に対して嘲笑高らかに宣戦布告したと言い換えてもよい。このあたりは「あした天気」の熱いあとがきからの想像である。