近所に個人経営の居酒屋があり、部屋で準備するには面倒くさい焼き魚を食って、原価でソフトドリンクを飲みながら常連たちと話をしたりしている。
その店には、山登りが好きな人間が多く、どこそこの山に行ってきたけど天候に恵まれず、富山に撤収して寿司を食って帰ってきたとかな話をするのが楽しい。読書好きな人間も多く、いまは柚月裕子「孤狼の血」の回し読みが行われている。
- 作者: 柚月裕子
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2017/08/25
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (5件) を見る
バイトを始めたピカピカの大学生が持ち出したのは、スマートフォン。そこから客のリクエストに応じて次から次へと魔術師がハトを取り出すように楽曲を流し始める。ロッド・スチュワートからイマジンから美空ひばりに至るまで。
そのカラクリはというと、某非合法アプリを使うと世界中の人々(たぶん)がアップロードした音源が聴けるのだそうな。聴けるのみならず、ダウンロードして恒久的に自分のものにすることも可能とのこと。
世の中、ここまできたかと衝撃を受けたのと同時に、iPodに格納パッケージされた有限の音源を繋いで汲々としている自分に若干の羞恥を感じた。
羞恥心はさておき、音楽というものは無料のいわばストリーキングで受容されるものになってしまったのだなとの感慨。そして音楽というものの重みが、強い言い方をすると冒涜されたという憤り。いずれも諦念を伴っての思いではあるのだけど。
先に述べた本の回し読み。これも金が回らないという点においては、某非合法ソフトとその指向を同じくするものなのかもしれない。しかし、そこには各人の読後の思い(感想)と対峙するという場面が現出する。
そういう意味で両者の姿勢は異なるものだと思うし、それを突き詰めると音楽と書物というメディアの違いに到るのかなとも思う。
なんにしてもスマートフォンから発せられる無限のジュークボックスには驚かされた。