けろやん。メモ

はじめまして。こんにちは。

 戦史物から考える講談社学術文庫の功罪について。

書きました。
けろやん。メモ-同一著作が複数の出版社から刊行されることについて。
書き切れなかった論点、すなわち同一著者による(ほぼ)同一内容の書籍が名前を変えて再刊されることについて書いてみます。
これはひとつ前のエントリ(ツェッペリンのエントリのこと)で触れた同名異曲と正反対の形態です。異名同曲といったところでしょうか?我ながらセンスのない言葉ですね。
変な言葉は横に置において本題に入りましょう。
以下、4つのケースについて考えてみる。
1.異なる出版社から異なるタイトルで再刊された書籍
先に引用した私が元ネタにしたのが次のエントリ。
ARTIFACTはてな系-同内容の本が別々の出版社からKindle化される不思議
ここでkanoseさんは次の二つの書籍を紹介している。

中公新書から発刊されたものが講談社学術文庫から再刊されて流通しているということ。こういう書籍は戦史物に多いという印象。
同様の事例を挙げてみる。藤本正行「信長の戦国軍事学」(洋泉社)。
信長の戦国軍事学

信長の戦国軍事学

けろやん。メモ-藤本正行「信長の戦国軍事学」:都を離れること、正面対決をすること。
図書館で借りて読んだ。

ここで紹介した本は洋泉社から刊行されて絶版になっている(たぶん)。

信長の戦国軍事学

信長の戦国軍事学

現在は講談社学術文庫で読むことができる。藤本正行「信長の戦争『信長公記』に見る戦国軍事学」(講談社学術文庫)。
信長の戦争 『信長公記』に見る戦国軍事学 (講談社学術文庫)

信長の戦争 『信長公記』に見る戦国軍事学 (講談社学術文庫)

古本屋で学術文庫版が叩き売られていたので購入。内容については上記エントリを一所懸命書いたこともあり、タイトルは異なるものの同一内容の書籍であろうという見当はついていた。
しかし親本である洋泉社版は図書館の借り物であり、今後の参考書として手元に残しておきたくて購入。いわば確信犯的に購入した次第。格安の叩き売りだったし。
つぎの二冊も同様。人物往来社から講談社学術文庫へタイトルが改題され再刊されている。
島田俊彦「近代の戦争 第四巻 満州事変」(人物往来社島田俊彦満州事変」(講談社学術文庫
満州事変 (講談社学術文庫)

満州事変 (講談社学術文庫)

後者の来歴を引用。

本書の原本『近代の戦争 第四巻 満州事変』は1966年4月に、人物往来社から刊行されました。

満州事変」というタイトルを抜き出し継承してはいるものの「近代の戦争」というシリーズ物から1冊を取り出して再刊している。「近代の戦争 第四巻 満州事変」が「満州事変」に改題。シリーズのほかの本はいったいどうなってしまったのだろうか?
3.同一出版社で刊行され同じ出版社の別シリーズで再刊された書籍
ピンポイントでしか見つけられなかった想像力をかき立てられるケース。
太平洋戦争研究会「太平洋戦争全史」(河出書房新社

太平洋戦争全史 (河出文庫 (た22-4))

太平洋戦争全史 (河出文庫 (た22-4))

同書(以下「全史」と呼ぶ)の来歴を引用する。

本書は小社より刊行されたふくろうの本「図説・太平洋戦争」(1995年初版、2005年に増補改訂版)をもとにしたものです。

「図説・太平洋戦争」の正式タイトルは、太平洋戦争研究会「図説 太平洋戦争」(河出書房新社「ふくろうの本」)である(以下「図説」と呼ぶ)。

図説 太平洋戦争

図説 太平洋戦争

両書籍は河出書房という同一出版社から刊行されている(ふくろうの本シリーズが先行)。しかし同シリーズは写真を中心にしたシリーズ書籍であり(非常にコアな写真も掲載されている)これを文庫化するというのはすごいことである。判型も非常に小さくなるので掲載写真等はどのように処理しているのだろうか?
判型変更以上に複雑怪奇な様相を呈している。「全史」の来歴を改めて検証してみる。

(「図説」の)2005年の増補改訂版をもとにしたものです。

すなわち2005年に「図説」の増補改訂版(先行)を出しているとのこと。ところが翌年2006年に「全史」とタイトルを変え判型を変えて再刊しているのだ。この2005年と2006年の1年間の間に河出書房の内部で何が起こったのであろうか?*1

4.異なる出版社で刊行されタイトルを同じくして再刊された書籍
同じ内容の書籍を同じタイトルで再刊した良心的な例もある。
高橋正衛「昭和の軍閥」(中公新書

昭和の軍閥 (中公新書 194)

昭和の軍閥 (中公新書 194)

高橋正衛「昭和の軍閥」(講談社学術文庫
昭和の軍閥 (講談社学術文庫)

昭和の軍閥 (講談社学術文庫)

後者の来歴を引用する。

本書は、1969年に中央公論社から刊行された同名の書を文庫化したものである。

講談社学術文庫の再刊については、恐れ入るまでに驚愕していたというか赤面していたが良心的な面もあるではないか。
と持ち上げたいところなんだけど、「昭和の軍閥」の著者である高橋正衛は講談社学術文庫で再刊されるときには故人となっている。1999年没。
中公新書から講談社学術文庫で再刊される以前である。詳しい事情はわからないが、著者が他界しており出版社側も違うタイトルに改題することができなかったことも一因かと思われる。
以上、4つのケースに分けて考えてみたがそのほとんどに講談社学術文庫が絡んでいる。絶版になった書籍の再刊(復刊)することは読者にとって有益だと思うが、もう少し何とかならないものだろうか?
なんにせよ私も含めてみなさんも「トラップ」にひっからないようにしたいものですね。
−−−
ここまで講談社学術文庫を中心とした「再刊商法」について否定的に書いてきました。でも商法自体には腹が立ちますが、絶版本をいまこうして私たちが読むことができるのはうれしいことですね。でも商法はやめて欲しいな。
さて本文では戦史関係の本ばかりをとりあげましたので穏やかな書籍を紹介しましょう
倉嶋厚原田稔編者「雨のことば辞典」(講談社学術文庫

来歴を紹介しましょう。

本書の原本は2000年に小社より刊行されました。

編者のお二人はご健在。倉嶋さんは「日本の空をみつめて」、原田さんは「雨の文化史」というような魅力的な本を書いているようです。
(参考)
教えてgoo-絶版本をほかの出版社から復刊させられる?
京都府立図書館-書名について「これが私の探していた本?」
故事ことわざ辞典-新しい酒は新しい革袋に盛れ
よく耳にする言葉ですが使い方には注意が必要かもしれませんね。

新しい酒は新しい革袋に盛れとは、新しい思想や内容を表現するには、それに応じた新しい形式が必要だということ。

(ほぼ)同じ内容を表現するのに書名(タイトル)を変える必要があるのでしょうか?
日本図書コード管理センター-ISBNと日本図書コードのルール

書名(タイトル)が変更された場合も、新しいISBNコードを付与します。

だそうです・・・。
Wikipedia-講談社学術文庫

第二次世界大戦(太平洋戦争史)・昭和史関連も多数刊行している。

復刊ドットコム
刺青殺人事件‐e-Tax
かの名作「刺青殺人事件」が光文社文庫版で絶版になっていたのが、新装で復刊されました。こういう復刊はとてもうれしいですね!

*1:追記「全史」は2006年に刊行されたが、その後も「図説」はふくろうの本から刊行を続けている。したがってタイトルも異なり内容も異なる書籍だった。「増補改訂版をもとにした」に惑わされました。関係者には謝罪します。