けろやん。メモ

はじめまして。こんにちは。

 井形慶子「老朽マンションの奇跡」(新潮社)〜新しい対抗軸

老朽マンションの奇跡

老朽マンションの奇跡

若者はいつまで家賃を搾取され続けるのか

というコラムで取り上げられていたので購入して、読了。

中古のおんぼろマンションの一室を改装してしまうという話であるが、「持ち家派vs.賃貸派」ではなく、「新築マンション派vs.中古マンション派」の価値観を考えるきっかけになる本だ。

マンションというものは、自分のものであって自分のものではない。居住区の箱の中はいくらでもいじれるが、その箱から一歩外に出ると全部規制がかかってしまう。今さらながら、当たり前の事を今回の工事で思い知らされた。
(p.128)

という状況下で、著者はリフォーム業者と一緒になって、理想の住まい(箱)を形作るために奮闘する。床を引っぺがし、壁の中を手探りでいじるというスケルトンリフォームの過程で、錆がどんぶり一杯も飛び出す水道管、謎の配線設備が出現するなど、手に汗を握る。

そんな隠れたモンスターを退治して、ようやく内装にとりかかれたものの、外壁が吸い込んだ湿気で乾かぬセメント。著者が心底語るように、家を一軒建てるよりも、よほどに困難な「事業」であることが生々しく伝わってくる。

さて、以下、私事になるけれども、私は中古マンション派である。いろいろと事情があり、築ウン十年、私が生まれる前に築城されたマンションに住んでいる。で、最近、買い換えようと思い、目星をつけた物件を内覧したのだけども、そこがちょうど本書と同じく、スケルトンリフォームの真っ最中だった。

いやあ、凄かった。床や壁はコンクリート剥き出し、配線、配管はすでに新しいものに取り替えられた後だったせいか、妙に艶かしく、裸の壁を這っていた。マンションでもこんな風にできるんだ、と思った。で、気になるお値段は、相場より700万円くらい上乗せされていたね。

この物件は、専門業者が買取り、その業者がスケルトンリフォームを施し、不動産会社を通じて売りに出すという方式だった。で、買値と売値の差額をゲットして儲けにするというもの。ということで、その専門業者は安値で買い取るのだが、売れ残りのリスクを抱えるので、リフォーム代金プラスアルファで売りに出すという仕組みになっている。

さて、専門業者に売った原始売却者(先住者)はどうなのか?というと、通常の売値に対して、リフォーム代金及び前述のプラスアルファを差し引いた額しか手に入らない。これでは、丸損だ!と思うかもしれないけれども、果たして通常の売値で売却できるのか?という問題があるのと、なにより中古物件売買の瑕疵*1が専門業者に移転するというメリットがある。

そこで、築年数が古い物件については、以上のような専門業者に売却することで有利(?)になることがある、ということで、この方式には一定の需要があるそうな。ということを不動産屋が話し、私は話半分で聴いていた。

さて、本書に戻ると、先に述べたように「新築派vs.中古派」という対抗軸での議論は、「持ち家派vs.賃貸派」という対抗軸での「熱戦」に比べて、非常に少ないので、一つの参考図書になるのかな、と思った。

*1:専有部分の配管不備など